事件番号: JP2007-0002 裁 定 申立人: (名称) Accton Technology Corporation (住所) No.1 Creation Rd.III, Science-based Industrial Park, Hsinchu 30077, Taiwan,R.O.C 申立人代理人: 弁護士/弁理士 長沢 幸男 ニューブリッジ総合法律事務所/長沢特許事務所 登録者: (名称)株式会社エスエスディ (SSD Corporation) (住所) 東京都板橋区前野町二丁目1番20-317号 (平成17年10月31日住所移転)東京都港区白金五丁目7番15号 代表者 佐藤 晃一 申立人代理人: なし 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン名 紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方 針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づいて 審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「edge-core.co.jp 」の登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「edge-core.co.jp」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の特定 (1) 本件申立書における申立人名称は、英文表記の「Accton Technology Corporation (住所: No.1 Creation Rd.III, Science-based Industrial Park, Hsinchu 30077, Taiwan,R.O.C)」である。 他方、提出された甲第2号証の営業所設置登記を証 する登記簿では、日本語表記の「アクトンテクノロジイ株式会社」である。更に、申立人が、 甲第1号証として提出した日本における商標登録証の権利者名は、漢字の「智邦科技 股●有限公司」である。すなわち、申立人の提出に係る書類には3種類の申立人名称 が混在している。 そこで、パネルの要請により提出された股●有限公司変更登記表及び行政院国家科 学委員会科学工業団区管理局発行の法人証明書(英文)、並びに、商標登録証な どにより、申立人住所、会社統一番号、資本金等を検討した結果、パネルは、上記3 種類の申立人名称表記が、いずれも申立人を指称するものであると認定する。 (2)更に、申立人が提出した甲第4号証の交信eーメイルにおける交信当事者の一方は申 立人ではなく、当該当事者と申立人との関係の立証が希薄である。しかし、2007年1 月16日01:06に発信されたメールにおいて、その交信文書が「c.c.」で申立人に送ら れている点、ならびに登録者が答弁書を提出せず、何らの反論も行っていないことに鑑み、 パネルは、甲第4号証を証拠として採用した。 注: 一部の環境で表示できない漢字が使われているため、HTML版のみ文字を置き換えています。 裁定文では「●」は人偏に「分」という漢字です。 5.当事者の主張 a 申立人 申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求し、下記のとおり主張している。 (1)登録者の登録ドメインedge-core.co.jpは、申立人の登録商標「edge-core」と同一であ り、容易に混同を生じる。尚、申立人は国際的ハイテク企業で、その登録商標 「edge-core」は日本、台湾、欧州連合、ニュージーランド等の国で登録した商標(甲第1 号証)である。更に、申立人はドメイン名「edge-core.com」についても登録しており、登録 者の登録ドメインは申立人登録ドメインと主要部分が同じで、更に申立人の登録商標と 混同を生じる。 (2)登録者は、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していない。登録者の代 表取締役である佐藤晃一(甲第2号証)は、2005年4月1日から2006年8月31日の 期間、申立人会社に雇用され、経理の職務にあり(甲第3号証)、申立人の日本営業所 設立準備を担当し、ドメイン名、edge-core.co.jpの申請をおこなった。本来であれば、申立 人会社日本営業所開設準備完了後に当該ドメイン名を申立人会社に移転するはずであ った。登録者の代表取締役佐藤晃一は離職後、電子メールを通じて、当該ドメインの移転 に協力する旨の回答をしている(甲第4号証)。しかし、その後行方不明となった。又、登録 者の営む会社の事業に「edge-core」は何ら関連がない、以上により、登録会社はドメイン edge-core.co.jpに関して、何ら権利や正当な利益がないことを証明している。 (3) 登録者は悪意をもって、ドメインedge-core.co.jpを登録した。 前述のように、登録者の代表取締役佐藤晃一が、「edge-core」を主要部分とするドメイン の登録を申請した。しかも、当該ドメインは本来であれば申立人会社に移転すべきものであ ったのに、佐藤晃一は離職後、申立人との面会を拒んでいる。それにより、申立人は日本に おいての登録商標「edge-core」と同じドメインを使用して日本地区での業務展開ができず、 業務の発展に重大な影響を生じている。しかも、登録者は現在までドメイン edge-core.co.jp使用しておらず、登録者が申立人会社の業務を阻止し、妨害しようと試み ていることは極めて明白で、その様な行為に悪意があるというのも言うまでもない。 b. 登録者 登録者によって答弁書は提出されなかった。 5 争点および事実認定 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパ ネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に基づき、処 理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を 下さなければならない。」 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同 一または混同を引き起こすほど類似していること (2)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること (1) 同一または混同を引き起こすほどの類似性 (ⅰ) 本件ドメイン名の要部である「edge-core」の語は、申立人の商号ではない。しかしなが ら、申立人は「edge-core」の文字をややデザインした「Edge-corE」商標を、登録者の ドメイン名登録日である2005年6月1日以前から商標として使用し、当該商標は、中華 民国 (権利発生日2005年1月1日)、日本国 (2004年4月27日出願、2005年10 月7日登録) において、国際分類第9類の「ネットワーク用コンピュータデータ記憶装置及 びその他のコンピュータ用記憶装置、他」の商品を巾広く指定して出願し、登録されている。 また、当該商標は、ニュージーランド (2006年1月16日登録)、オーストラリア (2006年 2月13日登録)、トルコ (2005年12月16日権利発生)、OHIM (ヨーロッパ商標庁…登 録日判読不可) の各国および地域において登録され、これらの国における正当な商標権 者の立場を保有している。更に、申立人の主張のとおり、申立人は登録商標を付した商 品を日本をはじめ登録各国で広く販売している事実が認められる。 (ⅱ)本件ドメイン名の要部「edge-core」は、それがドメイン名という性格上、小文字の普通 書体から成っている。これに対し、申立人が各国で登録している商標は、頭文字の「E」と 末尾の「E」文字が赤色大文字で構成された「Edge-corE」で、これら9文字が9個に区分 されれた黒色長方形の背景となる箱の中に白色で一つづつ配置された態様からなっている。 両者は、このように外観上の相違はあるものの、申立人商標からは「edge-core」の文字が 明瞭に読め、またその称呼「エッジコア」は両者全く同じであって、その観念もまた同一であり、 その類似性は、同一に近い同一性をもった商標である。 (ⅲ) 更に、申立書において申立人はドメイン名「edge-core.com」について登録している旨 述べ、登録者の登録ドメインは申立人の登録ドメインと主要部分が同じで、更に申立人 の登録商標との混同を生じると主張しているので、この点について検証したところ、「http: //www.edge-core.com」は確かにネット上で使用されており、申立人の「edge-core」 製品に関するページが出てくることが確認された。そして、「edge-core.com」と 「edge-core.co.jp」の強烈な類似性は、需要者に混同を起こすことは必至である。 (ⅳ)したがって、登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標と 同一または混同を引き起こすほど類似していることは明らかである。 (2)権利又は正当な利益 (ⅰ) 登録の経緯 本件ドメイン名「edge-core.co.jp」が登録者により登録され、登録者が、ドメイン名の 登録についての権利又は正当な利益を有していないという申立人の主張点は次のように要 約できる。 ① 登録者の代表取締役佐藤晃一(甲第2号証)が、2005年4月1日から2006年 8月31日の期間、申立人会社に雇用され、経理の職務にあり (甲第3号証)、 申立人の日本営業所設立準備を担当し、ドメイン名、edge-core.co.jpの申請を 行ったこと、 ② 本来であれば、申立人会社日本営業所開設準備完了後に当該ドメイン名を申 立人会社に移転するはずであったこと、 ③ 佐藤晃一は離職後、電子メールを通じて、当該ドメインの移転に協力する旨の回 答をしている(甲第4号証)」こと。 申立人の提出した甲第2号証、甲第3号証、甲4号証は、佐藤晃一が申立人の「日 本営業所設立準備を担当」した点、そして本来であれば申立人会社日本営業所開設準 備完了後に当該ドメイン名を申立人会社に「移転するはずであった」ことの2点を除き、立 証されている。 しかしながら、上記の除外した2点については、甲第2号証に、申立人の日本における 営業所が平成18年2月1日付で設置されたという登記とともに、日本における代表者とし て佐藤晃一の名が登記されていることからみて、本件ドメイン名の登録者代表者である佐 藤晃一が、申立人の日本営業所設立準備を担当していたという申立人の主張、及び edge-core.co.jpのドメイン名申請が申立人によって行われたという推定をすることは可能で ある。しかし、その申請が、申立人の指示のもとに行われたのか、又は申立人のために行っ たのか、或いは登録者が自己の所有にすべく行ったのかについての意図は、提出された書 類からでは必ずしも明らかでない。 しかし、本件ドメイン名「edge-core.co.jp」の要部「edge-core」は、登録者の商号の 要部ではなく、登録者はその商標権を持っていない。 そして、佐藤晃一は、本件ドメイン 名の申請を自らが申立人に雇用された後に行っている。また、この語が登録者の創作もしく は選択に係る、登録者の正当な権利であると客観的に判断できる資料及び情報も存在 しない。したがって、「本来であれば、申立人会社日本営業所開設準備完了後に当該ド メイン名を申立人会社に移転するはずであった」とする申立人の主張をパネルは容認する。 次に、第4号証の、登録者の代表取締役佐藤晃一が離職後交信した電子メールには、 佐藤晃一が、「edge-core.co.jpの契約者名義の譲渡書類が2日前後で届き、その際アク トン日本支社の印鑑証明が必要になる」と発信しており、申立人へのドメイン名の譲渡を 承諾している記載がある。このことは、少なくともこの時点までは、登録者はドメインネームの 申立人への譲渡もしくは返還に同意していたと判断することができる。 したがって、登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していな いという、申立人の主張には理由がある。 (3) 不正の目的での登録及び使用 申立人は、申立書において、「登録者は悪意をもって、ドメインedge-core.co.jpを登録し たと」と主張する。しかしながら、申立人から提出された証拠の範囲において、登録者の代 表取締役佐藤晃一が、「edge-core」を要部とするドメインの登録を申請した時点で果たし て悪意があったかどうかを判断できる資料はない。 登録者からの答弁書が出されていないため、登録者と申立人間にどのような事情や事態 が存在するのかは知り得ないが、登録者は本件ドメイン名を全く使用していないにもかかわら ず、申立人との面会を拒み、また申立人は登録者との音信がとれない状態であるという現状 は、登録者に本件ドメイン名を返還もしくは譲渡する意思がないと考えざるを得ず、したがって、 登録者が不正の目的で登録を保持し続けていると判断する。また、申立人は、自己の商標 である「edge-core」を使った「edge-core co.jp」のドメイン名を使用した日本地区での業務展 開ができず、業務の発展に重大な影響を生じているのであって、このことは、登録者が申立人 会社の業務を阻止し、妨害しようと試みているという申立人の主張には理由がある。 したがって、これら諸点を総合的に判断した結果、パネルは、登録者の本件ドメイン名が、不 正の目的で登録され登録者によって単に保持され続けているものであると認め、登録者が、ド メイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないと判断する。 6 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「edge-core.co.jp」 が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名について権利又は正当 な利益を有していない、本件ドメイン名が不正の目的で登録者によって保持されているものと裁 定する。 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「edge-core.co.jp」の登録を申立人に移転するものと し、主文のとおり裁定する。 2007年8月 14日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 下坂スミ子 単独パネリスト 別記 手続の経緯 (1)申立書受領日 2007年5月30日 (2)料金受領日 2007年5月29日 申立手数料の受領確認 (3)ドメイン名及び登録者の確認 2007年6月1日 JPRSへ照会 2007年6月1日 JPRSから登録情報の確認 確認内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること (4)適式性 日本知的財産仲裁センターは、2007年6月1日に申立書が処理方針と規則に照ら し適合しているかを確認したところ、不備が発見されたため、2007年6月4日に申立人 に申立不備通知を送付した。 2007年6月8日に申立人より当該不備を訂正した申立書が提出された。 日本知的財産仲裁センターは、2007年6月11日に訂正された申立書を確認し、その 結果、申立書には依然として不備があるため、申立人に修正を求め、2007年6月18 日に申立人より適式な申立書が提出された。 (5)手続開始日 2007年6月19日 手続開始日の通知 2007年6月19日 申立人へ通知(電子メール・ファクシミリ及び配達証明郵便) (6)登録者への通知日及び内容 1)2007年6月19日(電子メール及び配達証明郵便) 2)申立書及び証拠等一式 3)答弁書提出期限 2007年7月18日 (7)答弁書の提出の有無及び提出日 提出なし (8)パネリストの選任 2007年7月25日 申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。 中立宣言書の受領日:2007年7月27日 パネリスト:下坂 スミ子 (9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知 2007年7月25日 JPNIC及びJPRSへ通知(電子メール) 申立人及び登録者へ通知 (電子メール・ファクシミリ及び配達証明郵便) 裁定予定日:2007年8月14日 (10)パネリスト指名書及び一件書類受け渡し 2007年7月25日(電子メール及び配達証明郵送) (11)パネルによる審理・裁定 2007年8月6日 申立人に対し、申立人の英文社名及び中文社名に関する書類 の追加提出を要請 2007年8月8日 申立人より、「株式会社変更登記表(中文)」及び「会社登記証 書(英文)」を受領 2007年8月14日 審理終了、裁定